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マーケティングの処方箋 第13回 コンジョイント分析導入にあたっての紛糾 -朝野熙彦

コンジョイント分析導入にあたっての紛糾』 -朝野熙彦

 コンジョイント分析は新製品開発に使われている定番的な計量技法です。朝野先生は日本のマーケティング界にコンジョイント分析を導入したパイオニアだと言われています。革新的な方法を導入するにあたっては、時には反対意見も出たのではないでしょうか。そこで今回は、コンジョイント分析の導入にあたってどのような紛糾を経験されたのかという裏話を朝野先生にうかがいたいと思います。 (村山)


 

■1970年代の導入期

 私だけがマーケティング実務へのコンジョイント分析の普及に取り組んだわけではありません。しかし比較的早い時期からコンジョイント分析の応用にかかわってきたのは事実でしょうね。今回は、どのような論議を経ながらコンジョイント分析が普及していったのか個人的な体験談を述べたいと思います。教科書的なテキストですと内輪もめは書きづらいですからね。

 世界的に有名なグリーンらが「判断データを数量化するためのコンジョイント測定」と題する論文を1971年に発表しました。これがコンジョイント分析をマーケティング分野に応用した最初の論文でした。彼らの応用例は雑誌媒体と広告コピーへの選好の分析でした。分析法の名称をオリジナルのconjoint measurement からconjoint analysisに改称したのも、この方法が新製品の開発に適していることを実例で示したのもグリーンらの貢献です。それが1970年代の海外の状況でした。

 Conjoint measurementの原典はルースら(1964)による、特定の結合則たとえば加法モデルにしたがって順序反応を分解するための基礎論でした。ですから原理の提唱者はグリーンではありませんが、グリーンらの発表が契機になってアメリカとヨーロッパでコンジョイント分析の応用が急激に広がり、またパラメータ推定の改良案が次々と提唱されるようになりました。そこで取り急ぎコンジョイント分析の成り立ちを展望することにしました。それが朝野(1979)の報告です。

 当時私は民間の調査会社に勤めていて、企業のマーケティング企画を手伝っていました。そこで日本のマーケティング実務にこの新しい方法を導入したいと思いたったのです。そのためにはコンジョイント分析の数理を紹介するだけでは不十分であり、自分で実際に使って社会に納得してもらう必要があると考えました。そこでヨーロッパ旅行のパッケージ・ツアーへの選好順序を分析して二木・朝野(1979)で報告しました。下の図がコンジョイント分析から推定されたある女性の部分効用関数です。全体の効用が複数の要因に分解されるので部分効用関数と呼んでいます。

 この女性は「せっかくヨーロッパまで行ったら出来るだけたくさん都市を回りたい」という効率的な観光旅行を志向していることが分かります。ツアーコンダクターが付き添ってくれた方が有難いという価値観であり、自由行動日が少ない方が訪問都市数よりも選好を決定する要因になっていることが分かります。


図 ヨーロッパ旅行の部分効用関数

 


 

■開発会議での議論

 企業の方々と一緒にコンジョイント分析を実務に導入していったのが1980年代です。開発会議では企業の研究開発者やデザイナーの方々と様々な議論を交わすのが常でした。率直で奥の深い現場感覚の異論が噴出したものです。図の事例をたとえに使って典型的な異議を3つ紹介しましょう。

【異議1】プランを単純にランキングさせるだけで済むじゃないか
 それ以上面倒な分析をしなくても、4通りの訪問都市数と3通りの自由行動日を組み合わせた4×3=12通りのプランを示して、行きたい順序をつけてもらえれば終わりではないか?コンジョイント分析から人気ランキング以上の情報が出てくるのか?

 この異議に対して私は次のように反論しました。ランキング結果だけを眺めていてもユーザーが各スペック(水準と呼びます)をどれだけの価値で評価しているかは分かりません。部分効用関数を推定すれば各要因がどれだけ重要なのかも数値化できます。

 調査の目的はユーザーに選好される旅行プランを決定することでしたね。それなら単純にランキングするだけでは12通りのプラン以外の組み合わせについては何の情報も得られないことを指摘したいと思います。たとえば訪問都市数をもっと増やしたらどうなるか?自由行動日を1日,2日,3日,5日に設定した場合はどうなるのかも知りたくなりますね。図のような部分効用関数を利用すれば、多少ラフではあるもののどちらも予測できます。前者は効果が逓減する増加関数の外挿予測、後者は内挿予測をすればよいのです。もしコンジョイント分析をしなければ、調査しなかった旅行プランについては新たに調査をしなおさなければならないことになります。

 要因が事例のようなわずかなオプションしかとらないような要因ならともかく、もし旅行代金のような円単位できめ細かく商品設計できる要因を加えたら、内挿・外挿の機能が決定的に必要になるのは明らかですね。

【異議2】選好の理由を聞かなくて大丈夫なのか
 コンジョイント分析はプランに対する選好順序を聞く1問だけの調査で終わりになります。するとそれで大丈夫なのかが心配になる人が出てくるものです。この心配に対しては、各水準への評価も、要因の重要度もすべて部分効用関数から明らかにできるので質問する必要はないと答えました。そもそも人間は改まって質問すれば社会的に聞こえのよいタテマエを答えがちです。ふだんは「アンケート調査をしても消費者はホンネを答えないのだから調査は信用できない」と公言している人が、異議2のようなことを言うことがあっておかしいと思いました。自己矛盾していますね。選好理由を直接的に聞くことは避けて、選択結果を通じて選好理由を推定すべきだというのがコンジョイント分析の基本的な思想です。

【異議3】新製品を消費者に聞くこと自体が馬鹿げている
 消費者には将来の製品など答えようがない。消費者に価値ある製品を提案するのは消費者ではなく企業の側である。この論はとりわけデザイナーに多くみられました。クリエイティブはプロの専売特許であって消費者に任せてはならない。また経営者は、製品化の決定権を消費者にゆだねるような不安からコンジョイント分析に拒絶感をいだくという傾向もありました。口では顧客志向とか市場志向と言っても、ホンネでは自分の手元から製品開発を手放したくない、という防衛本能が働くようです。

 私は、コンジョイント分析を導入するということは、あくまでも消費者側の価値観を測定するだけなのであって、最終的に何を製品化するかは経営者およびR&Dの判断です、と答えました。自社の技術や人的、資本的な制約もありますし、競合品とのポジショニング戦略など検討すべき要因は沢山あります。すべてを勘案して製品化の決定をすればよい。ただし消費者がどう反応するかはコンジョイント分析の結果を参考にすればよいのです。企業にとってA案、B案どちらも供給可能であり事業性もほぼ同じである、という時に消費者に選好されるプランがどちらかが分かっていた方が良くはないか?というくらいの情報価値は持っていると思うのです。


 

■コンジョイント分析についての自分なりの反省

 以上のような論争を重ねつつ1980年代の導入期が過ぎて行きました。1983年に博報堂がコンジョイント分析を紹介した書籍を出しました(60-88頁)。ただし内容は海外文献の抄訳でありオリジナルの事例は入っていません。武藤・朝野(1986)は日本における集合住宅の企画とバイクの設計の事例を報告しました。私はその他ワープロ、コピー機、乗用車、果汁飲料、日用雑貨品、保険商品など様々な開発プロジェクトに加わってコンジョイント分析を適用してきました。

そうした経験を経て自分なりに気付いた反省点を3点あげて今月の想い出話を締めくくりたいと思います。

1.パラメータ推定法など問題にされない
 コンジョイント分析をマーケティング意思決定の何の役割で使うのか、というユーザー側の認識こそが実務導入の要であって、コンジョイント分析の研究者が一生懸命になっていたパラメータ推定法の違いなどは実務の現場では問題にもされなかった。

2.大事なのは属性と水準をどう決めるかである
 属性というのはたとえば「訪問都市数」であり水準というのは「1都市」「2都市」・・・というような区別をさします。コンジョイント分析の成否を決定するのは、この属性と水準をどう決定すればよいか、という一点につきます。そのためには顧客がどういう手掛かりをもとに商品を比較して選択しているのかという根拠を知っていなければなりません。顧客にとって的外れな属性で分析するとコンジョイント分析全体が無意味になります。消費者理解ができていない企業はコンジョイント分析をする段階にありません。

3.プランの組み合わせ方
 実務の上では多数の属性を分析したくなります。すると全属性と全水準を組み合わせると膨大な数のプラン数になってしまい、人間が評価することが困難になります。教科書的に簡単な例題をやっているだけでは気がつかないのが、このような実務的なトラブルの対策です。コンジョイント分析ではそうした反省を踏まえて直交配列の積極的な利用という方向で応用の技術が進展していきました。
以上のような反省を踏まえて、より包括的な近年までのレビューを朝野(2012)で行っています。

 


 

■引用文献

朝野煕彦(1979)コンジョイント分析の方法-事例及び使い方-.日経広告研究所報,69,28-36.
朝野熙彦(2012)「マーケティング・リサーチ」講談社
Green,P.E. and Rao,V.R. (1971) Conjoint measurement for quantifying judgmental data.
    Journal of Marketing Research,8, No.3,355-363.
博報堂 (1983)「テクノ・マーケティング-市場が見える新戦略手法」日本能率協会
Luce,R.D. and Tukey J.W.(1964) Simultaneous conjoint measurement:A new type of fundamental
    measurement.Journal of Mathematical Psychology, 1,1-27.
武藤真介・朝野煕彦(1986)「新商品開発のためのリサーチ入門」有斐閣
二木宏二・朝野煕彦(1979)コンジョイント・メジャメント.日経広告研究所報,67,1-6.


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朝野 煕彦 (あさの ひろひこ)

1969年、千葉大学文理学部卒業後、マーケティング・リサーチの企業に就職し、コンサルティング業務を行う。1980年、埼玉大学大学院修了。その後、筑波大学特別研究員、専修大学教授を経て、東京都立大学、首都大学東京教授を歴任する。現在、多摩大学大学院客員教授。日本マーケティング・サイエンス学会論文誌編集委員。日本行動計量学会理事。著書は「最新マーケティング・サイエンスの基礎」(講談社)など多数。


 

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