• HOME
  • マーケティングの処方箋 第16回 マーケティングと距離(後編) -朝野熙彦
 

マーケティングの処方箋 第16回 マーケティングと距離(後編) -朝野熙彦

マーケティングと距離』 -朝野熙彦

 前回のお話で距離にはいろいろな種類があることが納得できました。(マーケティングと距離(前編)はこちら)今回は汎距離の意味をどう解釈したらよいのか、そしてどういう場面で汎距離が必要になるのかを伺いたいと思います。(コレクシア 村山)


 

■山頂からの高低差を実現する距離

 富士山は遠くから眺めると2変量正規分布のような形をしています。そして山頂を中心にした地図の等高線は、山頂からその地点まで降りてきた高度が等しいラインを意味しています。その意味で頂上から一定高度降りるのに必要な「中心からの距離」が汎距離generalized distanceの納得しやすい解釈です。

 一般的にp変数の多変量正規分布の確率密度関数は

 ただしμは期待値ベクトルで多変量正規分布の中心の位置を表し、Σは分散共分散行列です。標本データで代用する場合はそれぞれ,S で表します。 はp次のベクトル、Sはp×pの対称行列です。

図1 2変量正規分布

図1はp=2で中心がの正規分布を表したイメージです。汎距離は密度関数の高さに着目して、「密度関数が小さい地点ほど中心から離れている」と判定するのです。これは多変量正規分布であればもっともな判定です。ここで地点とか中心といっているのは、あくまでも図1のベースになっている底面におけるポジションを言っているのです。つまり変数1と変数2で作られる座標平面上の中心から特定の点までのSを考慮した距離なのです。物理的に山の頂上から直線で測った距離ではありません。

図2 2変量正規分布の等高線

 富士山を高度1000メートルのラインでみると富士宮市の方向が急斜面になっています。ですからもしスキーで滑るとしたらその方向を選べば、より早く山を降ることになります。
図2でいえば左下から右上の45度線の方向が緩斜面で、それと直角の方向が急斜面になっています。さて、(1)の指数関数内の2次形式の項が汎距離Dです。もしxがに近ければDの値は小さくなるし、中心から離れればDの値は大きくなります。具体的にDとi地点までの距離を示しますと

 (2)の平方根が汎距離 です。ユークリッド距離の平方は

 でしたから、仮にデータが標準偏差1に規準化されていてしかも変数が無相関ならなので(2)の右辺はユークリッド距離の平方に一致します。つまり汎距離はユークリッド距離を特殊な場合として含んだ距離なので「汎距離」というのです。さて、図2では2地点は同じ等高線上にありますから、 になります。この解釈が成り立つためには、距離の一方が必ず同じ山頂でなければならないことに気をつけてください。


 

■マーケティングへの応用

 数の消費者の誰が集団の中心に近いかを判定するのに汎距離が利用できます。確率密度関数の値が大きな人ほど山頂に近いはずだからです。その反対に多次元空間での外れ値の検出にも汎距離が利用できます。実務では、厳密に多変量正規分布に従わない場合でも、おおざっぱに利用しています。実はMAチャート(多変量連関図)を使って外れ値を見つけるのも、その理屈は汎距離を見る評価と同じなのです。図3の楕円を確率楕円と呼びます。この円の外にあるデータは外れ値ではないかと疑われるのです。

図3 MAチャート(多変量連関図)

 ふだん汎距離など気にせずに消費者のクラスター分析をしていると思いますが、それは変数が元々無相関だったか、あるいは無相関になるように予め直交化の操作をしていたからなのです。たとえば因子得点をクラスター分析することはマーケティングでは常套手段です。因子分析で直交回転をしていればユークリッド距離を使えば済みます。しかし変数の相関が高いのにユークリッド距離を使うと、相関の高い変数の影響が強く出て、グループ帰属の評価がゆがめられることになるのです。

 なお今回紹介した汎距離のことをマハラノビスの汎距離という人もいます。厳密に言えば違うのですが、マハラノビスの汎距離と関連する指標なので広義にはそう呼んでもいいのかもしれません。


市場調査クリニックの最新情報は、現在フェイスブックページにて先行公開を行っています。

[市場調査クリニック フェイスブックページ]
https://www.facebook.com/researchclinic


 

「マーケティングの処方箋」 過去のインタビューまとめ

朝野先生 インタビュー一覧

 


 


 

朝野 煕彦 (あさの ひろひこ)

1969年、千葉大学文理学部卒業後、マーケティング・リサーチの企業に就職し、コンサルティング業務を行う。1980年、埼玉大学大学院修了。その後、筑波大学特別研究員、専修大学教授を経て、東京都立大学、首都大学東京教授を歴任する。現在、中央大学および多摩大学大学院客員教授。日本マーケティング・サイエンス学会論文誌編集委員。日本行動計量学会理事。著書は「マーケティング・リサーチープロになるための7つのヒント」(講談社)など多数。


 

?



ページトップ

お問い合わせはこちら

お電話はこちら 03-5937-0137