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マーケティングの処方箋 第19回 マーケティング・サイエンス3冊の本 -朝野熙彦

マーケティング・サイエンス3冊の本』 -朝野熙彦

 ここ数年、ビッグデータやデータ・サイエンス関連のニュースが増えてきて、自社でも科学的なマーケティングを導入しなければと考えておられる方が多いのではないでしょうか。酷暑の夏もようやく終わりを告げ、読書の秋がやって来ました。そこで、マーケティング・サイエンスの最先端を学びたいとお考えの方々のために、朝野先生から今年の優良図書を推薦していただきたいと思います。(コレクシア 村山)


 

豊穣の年

 今年はマーケティング・サイエンスの書籍の当たり年でした。幸いなことに素晴らしい書籍が次々と刊行されました。
 「理論」「モデル」「データ分析」はマーケティング・サイエンスを実践する上で欠かせない3本柱ですので、それぞれの分野で特におすすめしたい本を1冊ずつ紹介しましょう。
 書評ではなく、それぞれの書籍が生まれた経緯と上梓の価値について語りたいと思います。


 

理論に向き合う姿勢を学ぶ

水野誠「マーケティングは進化する」同文館出版  2014年6月17日発行

 Marketingの+ingの面、つまり市場の変化に対応してダイナミックに進化するマーケティング理論を幅広く紹介した貴重な本です。
 マーケティングでは古今東西、多くの諸先輩が様々な学説を提唱してきました。しかし、法則といえるほど再現性があるのか、それともただの成功体験と主張を並べただけなのか、話を聴く側からはなかなか分かりづらいと思います。果たして理論は現実の市場で通用するのだろうか、このような理論への懐疑は、まことに正当なものだといえましょう。

 日本にも日本人の創意による独自のマーケティング研究があってしかるべきだと思います。しかし、マーケティングは長年に渡って輸入学問でしたので、欧米の高名な学者の言説を無批判に翻訳ないし紹介した本も少なくなかったと思います。
 その点、明治大学の水野先生の新著は極めて率直にマーケティング理論を解説してくれています。実証研究が存在する場合でも、その実証にも限界があることを包み隠さず指摘し、理論が成立するための前提条件を示しています。同じ問題について研究者の間で異論・反論があって、まだ結論が定まっていない問題があることも打ち明けています。学問には未解決の問題があるというのは当たり前の話なのですが、とかく当たり前のことが当たり前に語られないのです。

 著者の執筆姿勢を一言で要約するならば「正直ベース」ということになりましょう。「何もかも分かっている」ように書いてある本は世に多いのですが、本当に必要なのは「何が分かってないのか」を教えてくれる本ではないでしょうか。何が分かっていないのかが認識できて初めて研究は前に進むものです。ですから本書は実務の革新を目指す方はもちろん、マーケティングをこれから学ぼうとする学生にも良い指針を与えてくれます。読みやすい、面白い、ためになる、という3拍子そろった本です。


 

納得しつつモデルを動かす

木戸茂「消費者行動のモデル」朝倉書店  2014年7月15日発行

 朝倉書店のマーケティング・エンジニアリング・シリーズの完結を飾る1冊がついに刊行されました。
 想い起こせば、このシリーズが企画されたのは14年前で、監修者は私と法政大学の小川先生、首都大学の木島先生、現早稲田大学の守口先生の4人でした。朝野熙彦「マーケティング・リサーチ工学」が2000年12月10日に上梓されて以来、長い歳月が流れました。当初、本テーマでの執筆を予定されていた某先生がやむにやまれぬ事情が重なってしまい執筆が遅れたために、法政大学の木戸先生がピンチヒッターとして後を継いで刊行にこぎつけたのが本書です。
 長年待たされた代償として、最新の研究成果と情報技術を取り込んだ素晴らしい本が完成したという喜ばしい結果となりました。水野先生の本と比べると、内容は消費者行動モデルに絞られていますから、より限定的です。しかし、今日おさえておくべきめぼしいモデルは網羅されていて、しかも懇切を極めた記述によって、実際にモデルを動かすことができるという理論と実際のバランスに優れた本になっています。

 モデルを稼働させるソフトとして、R, AMOS, artisoc, Scilab その他が利用されていますが、中でも中核的な開発ツールがScilabという科学技術計算用のフリーソフトです。本書ではScilabのインストール方法まで紹介されています。
 また著者自身が作成したコードも公開されていますので、読者は実際にPCを操作しながら本書を理解することができます。

 尚、本書と類似した狙いの既刊書としては次の本があります。
 Lilien,G.L. and Rangaswamy,A.( 2003 )”Marketing Engineering : Computer-Assisted Marketing Analysis and Planning (2nd Edition) “, Prentice Hall.
 私はこの本をゼミの輪読で利用したことがありますが、リリエンらの記述内容には独創性も新鮮味も感じられず物足りなさを感じたものです。
 その点、木戸先生の新著は著者のオリジナルの研究にもとづいて書かれており、十分に説得性があって、読んで面白い本だと断言できます。マーケティングの実務家そしてマーケティングを学ぶ大学院生の皆さんにぜひ読んでもらいたい書籍としてお勧めします。


 

小売マーケティングにデータ分析を活用する

上田隆穂他編著「リテールデータ分析入門」中央経済社  2014年6月21日発行

 企業でマーチャンダイジングに携わっている実務家の方々から、何かよいテキストはないものかという悩みを伺うことがあります。価格理論の知識もデータマイニングのスキルもない、といったところで会社業務は待ったなしです。学生時代に統計学を学んでいようがいまいが、お構いなく業務命令と人事異動は発令されます。そのような方々に躊躇なくお勧めできるのが本書です。デシル分析やショッピングバスケット分析のような定番の分析に始まり、顧客の特定、価格設定、ブランドロイヤルティの分析など、流通関係者が学ぶべき内容がすべてカバーされています。

 本書が世に生まれたいきさつは次の通りです。学習院大学の上田隆穂先生が昨年還暦を迎えるにあたり、先生のお弟子さんが集まって還暦記念に本を出版してお祝いしようじゃないかという話になったのです。分担執筆者は8人にのぼりますが、全員が大学の教員であり、新進気鋭の研究者ばかりです。上田先生は研究者としても一流ですが、教育者としての資質も極めて並外れたものがあることがよく分かります。ひるがえって小生には還暦記念に本を贈ってくれようなどという感心なゼミ生がいないのが不徳の致すところです。

 「入門」というタイトルの通り、本書は前提知識がなくても理解できるように書かれています。学部の学生でも問題なく自学自習が可能でしょう。統計分析の環境としてはフリーソフトのRを使っています。Excelしかなじみがないという実務家の方もおられるかもしれませんが、本書に出てくるコードは簡潔なものばかりですので、この本を手始めとしてRのユーザーになることも無理はないと思います。


 

最後に共通点をあげると

 以上3冊の本はいずれも学術的でありながらも実務的な価値に配慮しています。しかも文章が読みやすくて理解しやすいという点で共通性があります。世の中には、わざわざ晦渋な文章を書くことで学問の権威を保とうとする本もないではありません。しかし、ここで推薦した3冊は全て読者本位に書かれていますので、気落ち良く読めること請け合いです。

 


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「マーケティングの処方箋」 過去のインタビューまとめ

朝野先生 インタビュー一覧

 


 


 

朝野 煕彦 (あさの ひろひこ)

1969年、千葉大学文理学部卒業後、マーケティング・リサーチの企業に就職し、コンサルティング業務を行う。1980年、埼玉大学大学院修了。その後、筑波大学特別研究員、専修大学教授を経て、東京都立大学、首都大学東京教授を歴任する。現在、中央大学および多摩大学大学院客員教授。日本マーケティング・サイエンス学会論文誌編集委員。日本行動計量学会理事。著書は「マーケティング・リサーチープロになるための7つのヒント」(講談社)など多数。


 

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