『2017年新刊の刊行にあたって』 -朝野熙彦
21世紀に入ってベイズ統計学への関心が世界的に高まり、日本でも多数の書籍が出版されてきました。アマゾンで最近検索したら93点の書籍が出てきます。
私はマーケティング・サイエンスとは、空理空論を述べる書斎の学問ではなく、データと論理で実社会に貢献する実学であると考えてきました。
それではベイズ統計学を学ぼうとするビジネスマンのニーズは満たされているのでしょうか。そうではないだろうというのが私の問題意識です。
易しい読み物は簡単な代わりに仕事に使えない、ハウツーマニュアルは自分の課題がマニュアルと違えば使えない、理論書は難しくて挫折するという不幸な状況にあるとみています。この八方ふさがりの状況を打破したくて上梓したのが今回の本です(朝野熙彦編著、朝倉書店、2017年2月刊)。
一口で言えば、ビジネスデータの解析に直面する社会人のためのベイズ統計学の入門書です。
統計学は応用場面における課題解決と深く結びついて発展してきた学問です。ですからビジネスの場面と課題に照らして、ベイズ統計学には何の価値があるのか?という視点が大事だと思います。統計学の古典的な名著には捕獲したワニの胃袋の中身とか、あやめのガクの長さの分析がしばしば登場します。しかしそういう問題がなぜ重要で、自分のビジネスにどう結び付くのか見当がつかないのではないでしょうか?この本ではビジネスマンにとってリアリティのある視聴率、流通小売、マーケティングの事例をあげてベイズ統計学を解説しています。
もうひとつの特徴は、パソコンを使ったデータ処理との連携です。本書ではExcelに標準で入っている関数の操作から、フリーソフトのRとRStanの利用まで自然にステップアップしています。1冊の本の中でExcelとRとRStanのすべてを扱った類書はないのではないかと思います。インターネット環境があればフリーソフトも本書の分析コードも無料でダウンロードできます。
本書の目次は次の通りです。
1. 確率分布の早わかり
2. ベイズの定理の再解釈
3. ナイーブベイズで即断即決
4. 事前分布を組み入れた推定
5. ノームを手軽に更新
6. MCMCで事後分布を推定
7. 階層ベイズ・モデルでコンジョイント分析
8. 空間統計モデルで地域分析
9. ビジネスの中のベイズ統計
付録(Rの環境設定/RによるStan入門)
朝野熙彦「ビジネスマンがはじめて学ぶベイス統計学 ―ExcelからRへステップアップ―」朝倉書店
2017年2月20日発行
なお、株式会社コレクシアも今回の本で情報を提供してくれています。本書をきっかけにしてベイズ統計学のビジネスユーザーが増えることを期待しています。
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朝野 煕彦 (あさの ひろひこ)
1969年、千葉大学文理学部卒業後、マーケティング・リサーチの企業に就職し、コンサルティング業務を行う。1980年、埼玉大学大学院修了。その後、筑波大学特別研究員、専修大学教授を経て、東京都立大学、首都大学東京教授を歴任する。現在、中央大学および多摩大学大学院客員教授。日本マーケティング・サイエンス学会論文誌編集委員。日本行動計量学会理事。著書は「マーケティング・リサーチープロになるための7つのヒント」(講談社)など多数。