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「マーケティングリサーチの寺子屋」鈴木敦詞氏インタビュー - 第3回


「マーケティングリサーチの寺子屋」鈴木敦詞氏インタビュー – 第3回

>>「鈴木 敦詞氏インタビュー – 第2回 (前編)」はこちら

 マーケティングリサーチについての情報発信を早くから行っており、今もブログfacebookでの情報発信を活発に続けられている、「マーケティングリサーチの寺子屋」の鈴木敦詞氏のインタビュー第3回は、「回答者の背景を理解する(後編)」というテーマでお話を伺いました。


 

回答者の背景を理解する 後編
~生活者の背景や文脈そのものを理解する~

時代の変化~消費者は欲しいモノを答えられない

 なぜ生活者の背景や文脈そのものの理解が必要なのか、これはリサーチ不要論とも関連する話になります。最近のリサーチ不要論を解釈してみると、リサーチをしても消費者は欲しいモノを答えられない、そもそも自分のことをわかっていない、だから本当のことを答えない、答えられない、ということを言いたいのだと思います。

 でも、よく考えれば、これは当たり前のことではないでしょうか。一昔前、まだまだモノが今のようにあふれていなくて、新しいモノを買うと生活が楽になる、たのしくなる、豊かになるというような時代であれば、こんなものが欲しい、こんな生活がしたいということも自覚できたでしょう。それに、モノ自体もまだまだ完全なものではなかったでしょうから、そこに様々な我慢や不満もあったでしょう。

 ところが今の時代、基本的にモノはあふれているし、「使えない」と思うものも少ない。欲しいものはあるかと問われても、思いつくようなものは既にあるか、無いとしてもすぐには実現不可能なもの。そもそも、モノによって生活が充実するなんて考えていないし、大抵のものは揃っている。確かに良いものや新しいものも欲しいけど無くても困らない。このような状態で、消費者に欲しいものは何か、困っていることは何か、と聞いても答えられるはずがないと思います。そもそも、多くの人が欲しいと答えるものは、すでに誰かが製品化を目指しているでしょうし、そのような製品に差別性があるのでしょうか。消費者のニーズに応えることが企業の使命で、そのために消費者のニーズを聞くことがリサーチの役目、という考え方自体が、古典的というか、一面的な気がします。

 一方で、時に生活を大きく変える商品が現れます。たとえば最近では、iPhoneやiPadがそうでしょう。このような商品が出ると、一部の人から「これが、私が欲しかったもの!」という熱狂的な声があがり、彼らが様々な使い方を紹介し、この商品を使った生活がどんなに便利で楽しいかを口コミをしてくれる。そうすると、「こんなもの必要なの?」と最初は思っていた人たちが、だんだんとその便利さに気づいてブレイクしていく。最近の革新的なモノは、こんな過程を経て普及するように思います。実物があったとしても、すぐにその便利さには気づかない。いわんやニーズの段階においてをや、ということです。

 では、なぜアップルが革新的な商品を次々に生み出せるのか。それは、リサーチをしないからだ、などとも言われますが(笑)。実際は、ジョブズが「こんな生活」というものを描き、そのためにはこんな商品、スペック、ユーザービリティが必要とブレイクダウンし、形にしていったのでしょう。つまり、モノ自体を考えるのではなく、新しい生活や実現したいコトを想定し、そこに必要なモノを創造する。いま企業がもとめられているのは、こういうことなのではないでしょうか。


 

日常のシーンからの発想

 しかし、ジョブズのように未来を描ける、そして成功するまで試行錯誤を繰り返し、周りをへとへとにしてでも最終的な形にできる人は、そうはいません。凡人は、人々の生活を見たり、話を聞いたり、調べたりして、そこから、こんなことに困っているかも、こんなコトができると便利かも、楽しいかもということを想像し、新しい商品やサービスのアイデアを発想するしかないでしょう。

 もうだいぶ前の話になってしまいますが、R25というフリーペーパーの開発過程でのリサーチの話は興味深いものでした(参照)。この雑誌はM1層(男性の20~35歳)をターゲットにしようとしていたので、彼らを理解するために何組もグループインタビューを行なったそうです。ふだん新聞を読んでいるのか、どんなふうに読んでいるのか、読まないとしたらなぜ読まないのか、新聞に何を期待しているのか。けれど、そこから出てくる答えは、ふだん言われている新聞を読まないM1層とはまったく異なり、新聞をよく読み、ワールドビジネスサテライトを熱心に視聴するという姿だったそうです。しかし、そこには真実がなかった。見事に、リサーチは使えない、という結果になったのですね。

 そこで、新聞のことには触れずに、ふだんの生活の流れを丹念に聞いてみたそうです。朝はどうやって起きるのか、出かけるまでに何をしているのか、出勤途中の電車では、仕事中は、お昼は、仕事が終わったら、などなど寝るまでの生活を聞いてみる。すると、そこには見事に新聞という言葉が出てこない。そこで、やっと彼らの本音と生活の実態が確認できたそうです。新聞との接点はない、そもそも新聞を読むようなまとまった時間がない、けれど新聞は読むべきだとは思っているし、新聞で読むような情報は知らないとまずいと思っている。このような実態を把握できたことから、R25は作られたといいます。

図:作成したペルソナの市場規模を推定し、
STPを一貫させる手法(リンク)

 ここからの教訓は、モノに焦点をあててリサーチをしてもだめで、生活そのものに焦点をあてて、彼らの背景や文脈を理解することの大切さです。

 視点は少し違いますが、同じ頃に、商品やサービスの開発ターゲットの背景や文脈を精緻に作りこんでいくというペルソナという手法も注目されていたと思います。また、エスノグラフィが注目されるようになったのも、この頃ですね。2007年前後になると思うのですが、その前に注目されていたデータベースマーケティングや従来のリサーチへの限界の認識からか、このような解釈的な手法が注目され、理解が進むことになったのでしょう。


 

これまでのリサーチの限界

  私たちがふだん取り組んでいるリサーチを考えてみてください。そこで聞いているのは、商品の認知であり、使用状況であり、使用意向であり、購入理由であり、利用シーンであり、満足度であり、不満点であり、イメージであり・・・、でしょう。U&A調査に代表されるように、いかに商品視点でのリサーチが多いかがわかるでしょう。これらを否定するつもりは、もちろんありません。これらは施策の検証、確認としては欠かせないリサーチですし、このようなリサーチ結果から今後の改善や改良のヒントが得られるのですから。このようなリサーチを積み重ねてきたからこそ、いま私達が手にすることができる多くの商品やサービスの品質が向上しているわけです。

 しかし、市場が成熟してしまい、ブレイクスルーやイノベーションが求められる場面では、モノ視点での改良や改善だけでは難しいのではないかと思っています。そもそも、モノ視点でリサーチをするということは、多くの場合いまのユーザーを対象とすることになり、彼らは基本的にその商品やサービスを受け容れているから使っているわけで・・・、という矛盾を抱えている。そこから出てくるのは、やはり改良レベルの意見が多くなるでしょう。だからと言って、ノンユーザーに、なんで使わないのですか、どうしたら使いますかと聞いても、そもそも関心がないから使っていない場合も多く、答えようがない。大きなジレンマに陥ってしまします。

 こういう時こそ、やはり生活者の背景や文脈に立ち返る必要があると思います。たとえばノンユーザーは、どんな生活の中でどんなコトをしているのか、そのコトの中で商品やサービスを受け容れてもらうには何がポイントになるのか、などと考える。

図:生活者の背景や文脈を理解し、定量的に
コンセプト開発を行う手法(リンク)

 あるいは、ユーザーの中でも提供者=企業の想定していなかった使い方をしているかもしれない、と考える。これらは、まさに観察調査で言われているエクストリームユーザーの考え方なのですが。

 そして、ここで注意しておきたいのは、生活者の背景や文脈を読むのは定性的な調査に限ったことではない、ということです。アンケートでも、データ分析でも、生活を見る、生活者を見るということを意識し、設計すれば、可能だと思います。リサーチの役割のひとつは、この生活者の背景や文脈を理解することだと思いますし、いまは、こちらの重要性が増しているとも思います。「棲み込み」が大切なのだろうと思います(参照)。


 

文脈を理解するリサーチとは

図:消費者の文脈と製品コンセプトが適合
しているか確認するリサーチの設計(リンク)

 では、どうすればいいか。まずは、商品視点から生活視点、コト視点へ意識を変えることだと思います。どんな生活を送っているのか、このようなTPOで使っているのはどんなモノなのか、という視点になるでしょうか。商品の利用シーンと同じように聞こえるかもしれませんが、根本的に違います。たとえば、「スポーツドリンクをどのようなときに飲んでいますか」という問には、回答を限定させてしまう罠があります。“スポーツ”ドリンクというワードからの誘導です。しかし、スポーツの時は、風呂あがりは、風邪の時は、仕事中は、などとシーン毎に飲んでいるものを聞くと、しかも選択肢にスポーツドリンク以外のものも並ぶわけですから、コトからの発想で、広い視点でドリンクというものを考えることができます。おそらく、スポーツドリンクというモノからの発想よりは、広い発想ができるでしょう。

 人についても、最初からスポーツドリンクだからジョギングしている人というような枠を設けずに、できるだけ広い範囲の人に網を投げて、コト視点で様々な生活を聞く。ここから、可能性のある、これまでの括りとは異なるシーンやコトが見つかったら、ここで初めて人を絞り込んでいく。おもしろそうな、市場の可能性のあるコトに反応するのは、どのような人なのか。そして、その人の生活や文脈を再び精緻化していく。ペルソナですね。このような過程が基本になると思います。ただ、このようなリサーチはとても手間がかかるので、テーマ設定とリサーチ設計はしっかりと検討しないといけないと思いますが。

 また、最近話題のMROCにも注目しています。生活の背景や文脈を探るには、よいツールだと思いますので。そもそも、会話が成り立つ、盛り上がるということは、文字通りコンテクスト=文脈が成立しているからなので、そこにどのような共通する生活の背景や文脈があるのかということを探ることがポイントになると思います。また、こちらから問いかけもできるので、それこそ生活史だとか、ふだんの生活の実態を写真で見せてもらうとかが、わりと気軽にできるのもメリットで、その中でのモノの位置づけがわかると、とても有益な情報になるのではないかと思っています。

 ただ、MROCも含め、生活者の背景や文脈を理解するリサーチでは、従来のリサーチとは異なる方法論で対応する必要もあるのではないかと思っています。それは、クライアントの課題に沿って、データを集めて、結果をまとめて報告書にする、という形態ではちょっと違うのではないかということです。結果が出たら報告します、ではなくて、クライアントとリサーチャーが一緒になって生活者を理解する、体感するという姿勢が、とても重要だと思います。たとえば、グルインで終了後のブリーフィングがとても重要なことに似ています。MROCはもちろん、定量調査でも結果のデータをどう読むのか、そこからどのようなインスピレーションが得られそうかということを、ワークショップ形式でクライアントとリサーチャーが一緒になって考える、ということが必要なのではと思います。確かに、リサーチャーはデータ分析や消費者心理や行動などの視点ではプロかもしれませんが、これまでのユーザーとここが違う、この生活場面がおもしろい、こんなコトを提案できるのではないか、この文脈なら自社のこのシーズを活用できるのでは、などの発想ができるのは、常に担当商品について考えている、技術動向なども詳細に把握している、クライアントの側に優位性があると思うからです。

 従来の検証、確認メインのリサーチであれば、答えを出すべき課題がはっきりしているから、イエス/ノーや答えをはっきりと提示することができると思いますが、生活者の背景や文脈を探るという探索型のテーマの場合は、これまでの報告書納品というビジネスモデルとは異なるワークが必要になるのではないかと思っています。


 

  生活者の背景や文脈を理解するということ 

 今日の話を少しまとめてみます。

・「リサーチは使えない」といわれるのは、いわゆる探索的、創造的課題の時が多い。それは、消費者に直接たずねても、答えが返ってくるようなテーマではないので。

・このようなテーマでは、モノ視点でのリサーチから、コト視点でのリサーチが有効。これは、定性調査に限らず、定量調査でも必要なこと。

・コト視点のリサーチとは、生活の流れや具体的なコトの理解であり、その生活やコトの背景や文脈について理解しようとする視点であり、姿勢である。

・コト視点のリサーチの場合、リサーチと言われる機能はクライアントと一般生活者の媒介であって、そこから何かを生み出すには、その商品やサービスのプロであるクライアントと、データ分析のプロであり一般生活者代表であるリサーチャーのコラボレーションが大切。

 ソーシャルリスニングやビッグデータの時代、クライアントからある課題の答えを求められ、リサーチを通じてデータを集め、答えを出し、それを報告するという形態は、今後ますますスピードとコストダウンを求められるようになると思います。ここでは、従来のリサーチ会社の優位性は脅かされていくことになるのではないでしょうか。つまり、検証メインで発達してきたリサーチのビジネスモデルは、厳しい状況にあるということです。

 では、どこに活路を見出していくのか。成熟化した社会で企業が求められていることは、生活者の背景や文脈を理解し、その結果をベースに新しい生活やコトを創造し、そこに必要なモノを創りだしていくことだと思います。これこそが、いまクライアントが重視しているテーマではないかと思います。ただし、このテーマには正解はありません。そこでは、クライアントとリサーチャーがワークショップなどの場を通じ、コラボレーションすることで何かを生み出していくという新たな取組が必要になってきます。

 しかし、そこでは新たなビジネスモデルの構築が求められています。どのような手法を使うのか、ワーク全体をどのようにコントロールするのか、どうクライアントとコラボレートするのか、納品物をどうするのか、どのように費用を見積もるのか、などについて、考えていくことが必要になりそうです。


 

【8/21 補足】

本インタビューに関する書籍など、補遺となる内容を鈴木様がブログにて公開しています。ぜひこちらもご覧ください。

★「生活者の背景や文脈を理解する」(補遺)
http://link-kobo.no-blog.jp/research/2012/08/post_1775.html 

 

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鈴木 敦詞 (すずき あつし)

りんく考房代表。マーケティングエージェンシーや調査会社を経て、2006年に独立し現在に至る。マーケティングリサーチの研修、企画・分析を手がける傍ら、blog「マーケティングリサーチの寺子屋」で情報を発信する。日本マーケティングリサーチ協会個人賛助会員。2009年多摩大学大学院修士課程(経営情報学)修了。


 



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