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マーケティングリサーチの基礎 第2回~リサーチデザインを考える~ - 鈴木敦詞氏


マーケティングリサーチの基礎 第2回~リサーチデザインを考える~ – 鈴木敦詞氏

>>過去の鈴木 敦詞氏インタビュー はこちら

 マーケティングリサーチについての情報発信を早くから行っており、今もブログfacebookでの情報発信を活発に続けられている、「マーケティングリサーチの寺子屋」の鈴木敦詞氏より、「マーケティングリサーチの基礎」というテーマで全4回で連載を行ないます。第二回は「リサーチデザイン」の考え方・取り組み方をご紹介します。


 

 マーケティングリサーチの基礎 
リサーチデザインを考える

 リサーチデザインの3パターン 

リサーチデザインには大きく3つのパターンがあるとされています。それは、

・探索的リサーチ
・記述的リサーチ
・因果的リサーチ

の3つです。まずは、これから行おうとしているリサーチの目的が、この3つのパターンのどれにあてはまるかを検討することが重要になります。なぜなら、どのリサーチデザインを採用するかによって、その先の設計のポイントが異なってくるからです。

 「探索的リサーチ」は、マーケティング課題に対する仮説やアイデアがほとんどないため、市場や消費者の理解を深めたり、新たな仮説やアイデアのヒントを得ることを目的として行われます。マーケティングリサーチであれば、オープンデータ分析や既存データの再分析、定性的リサーチなどが用いられることが多く、ビッグデータであればマイニング的な手法が採られることが多いでしょう。

 ここで注意したいのは、探索的リサーチで得られる結果は、あくまでひとつの仮説やアイデアであるので、そのまま具体的な施策に落とし込むことにはリスクがあるということです。たしかにマーケティング課題への説明やヒントになるひとつの要因かもしれないですが、ごく一部の人たちや場面での特殊な仮説やアイデアにすぎないかもしれないのです。これらの仮説やアイデアが、直面するマーケティング課題を解決する真の要因となるのか、この点を検証する必要があります。

 検証のためのひとつの方法が「記述的リサーチ」です。マーケティング課題についての仮説やアイデアがある場合、それらがどの程度、支持されるのか、どのような人たちに支持されるのかといったことを確認していきます。あるいは、商品やサービスを市場に送り出した後のマーケットでの需要状況を確認する、どのような競争構造や消費構造になっているのかを確認する、さらに時間とともに変化するマーケットを確認する、なども記述的リサーチには含まれます。マーケティングリサーチでは定量的な手法や、様々に得られるビッグデータを定式化された分析モデルに則って分析することが多いでしょう。さらに、マーケットの変化をつかむために繰り返し実施することもあるので、きっちりと計画された構成的なアプローチとなります。(当サイトで紹介されている多くの手法も、この記述的リサーチになります)

 記述的リサーチから一歩踏み込んで、因果関係を明らかにしていく目的で行われるのが「因果的リサーチ」です。ある目標(たとえば売上、認知率など)を達成するにはどのような要因が重要なのか、A案とB案がある広告ではどちらが商品認知に有効か、などの具体的な課題を検証するためのリサーチになります。このリサーチでは、明らかにしたい要因以外の統制がとても重要になるため、実験計画という考え方に則った厳密なアプローチが必要になります。また、因果関係を明らかにするための分析手法やモデルの理解も求められるため、これらの知識を有した人の下での実施も大切なポイントになります。

 ただし、ひとつのマーケティング課題をクリアするために、上記のどれかひとつだけで解決するというものではありません。それぞれのリサーチデザインを組み合わせながら実施していくことが大切です。また実施の順番も、探索→記述→因果というわけでもありません。一般的に、探索的リサーチで仮説を構築し記述的なリサーチで検証を、ということが言われますが、ある程度市場の理解ができている場合は、記述的リサーチ(たとえばアンケート調査)を先行し、ポイントとなる点を探索的リサーチ(たとえばグルイン)で結果の深堀を行う、という流れがあってもいいはずです。


 

リサーチデザインの思考フロー 

 これまで、リサーチデザインの3つのパターンを見てきました。しかし、これらはあくまで、リサーチをデザインしていくための大きな指針にすぎません。具体的な実施計画に落としていくためには、さらにリサーチデザインの思考フローについての理解が必要となります。

 では、リサーチデザインのための基本的な考え方の流れは、どのようなものでしょうか。覚えておいてほしいのは、「リサーチデザインは、実際の作業フローと逆順で考える」ということです。図で示すと、このようになります。

リサーチデザインの思考フロー

 

 リサーチにおける実際の作業フローは、前回のマーケティング目標・課題の理解に基づいて設定したリサーチ目的と課題に沿って、リサーチ設計をし、リサーチ項目を設定することから始まります。そして実査(データの収集、整理)を行い、集計・分析を行い、報告書に仕上げ、それを元にクライアントが具体的なマーケティング活動へと展開していきます。しかし、リサーチデザインを考える上では、まったく反対から考えていくことになります。具体的に見ていきましょう。

 まず考えないといけないのは、「クライアントが、リサーチのアウトプットを元に、どのようなマーケティング活動に展開しようとしているのか。そのために求められるアウトプットは?」です。これは、前回の企画でのクライアントの理解とほぼ同様です。クライアントはリサーチの結果をもとに何をしようとしているのか(マーケティング目標と課題)、そのために何を明らかにしなければならないのか(リサーチ目的と課題)を明らかにすることが、最初のステップになります。そして、リサーチ課題に対する答え=アウトプット(報告書など)が、どのような内容になるとよいのかをあらかじめ想定します。

 つぎのステップで考えなければならないのは、「求められるアウトプットを得るためには、どのような集計・分析が必要になるのか?」です。たとえば、市場をセグメントしターゲットを明確にするためには、商品のポジショニングを明らかにするには、消費者の消費行動を明らかにするには、製品開発のためのインサイトを得るには、広告や販促の効果を検証するには、などなどいろいろなテーマがありますが、それぞれに適した分析手法やモデル、分析指標があります。これらを理解し、もっとも適した集計・分析の選択と設計を行うことが、2番目のステップです。

 そして、「必要な集計・分析を行うためには、どのようなデータが必要なのか」を検討します。これが3番目のステップになります。リサーチ課題に即したリサーチ(データ)項目を決めること、対象となる調査対象やデータ範囲を決めることが基本ですが、このときに忘れがちなのが分析軸、つまりデータをどのような視点で切り分けるのか、データを説明する要因として必要な項目は何か、ということの検討です。知りたい項目や確認したい項目については十分に検討するのですが、データを説明するための項目である分析軸の検討が十分ではなく、あとで集計・分析に支障をきたすということは少なくありません。

 また、分析手法やモデル、分析指標には、必要となる変数(調査項目、データ項目)、必要となるデータの形式(複数回答でもいいのか、評定尺度でないとだめなのかなど)、必要なサンプル数(安定的な解を得るには、変数の何倍のサンプル数が必要かなど)といった決まりごとがあります。これらの決まりごとを理解せずにデータ項目を設定し、データが集まった時点で「こんな分析がしたい」と思ってもできなかった、というのもよく見られるミスです。

 集めるべきデータが決まったら、データ収集上の課題を検討する4番目のステップに入ります。必要とするデータを集めるには、どのようなリサーチ手法がいいのか、あるいはどこからデータを収集すればいいのか、どのようにデータを整理すればいいのかを検討していきます。3番目のステップで、いくら「これだけのデータが必要」と決まっても、あまりにも調査項目が多すぎて1回のリサーチで聞くのは無理とか、そもそも必要なデータがデータベースにはない、必要な形のデータになっていない、などの問題が起こることも少なくありません。現実的な実現可能性と照らし合わせて、集めることのできるデータを確認し、取捨選択する必要があります。ここで、やっと最終的な調査項目が確定します。

 以上の検討を踏まえて、最終的な調査設計、データ設計を検討することになります。これまで検討してきたリサーチ対象(データ範囲)に対し、必要なデータ項目、データ形式、サンプル数のデータを得るための手法は何か。さらに、それらのデータを集めるためのスケジュールや費用といった具体的な項目に落とし込んでいきます。これらを決定することで、具体的なワークにつながる最終的なリサーチデザインが完成します。


 

簡単そうで簡単でないリサーチデザイン 

  さて、リサーチデザインの基本は以上になります。このようにリサーチデザインは、実は簡単ではない作業なのです。さらに、リサーチデザインによって結果の有効性は決まります。しかし、ほとんどの人は実生活の中でアンケートに回答したり、自分でアンケートを実施したりという経験があるでしょうし、そこで失敗をしたという経験もあまりないと思われます(実際には、誤ったやり方をしていたり、間違った結果を得ているかもしれないとしても、そのことに気づきにくいというのも、アンケートの怖いところです)。あるいは、何か問題を解決するために、いろいろな人の意見を聞いたり、ネットで調べたりということも、当たり前のように行っているでしょう。このような経験があるため多くの人は、リサーチは誰でも簡単に行うことができる、という誤解をしているように思われるのです。

 たとえば、「リサーチは使えない」と言われる原因のひとつとして、リサーチデザインの3つのパターンの選択や設計を間違っていると思われることが少なくありません。市場理解が十分ではなく仮説やアイデアを得たいのに、探索的リサーチではなく記述的リサーチを行うことで思うような結果が得られない。因果的リサーチをしているのに、実験計画が十分ではなく、どの要因が原因で結果に違いが出ているのかがうやむやになっているようなケースも見受けられます。

 また、途中あえて専門的な言葉の説明をしてきませんでしたが、ここで使ったような専門用語の理解も、もちろん欠かせません。さらに難しいのは、リサーチ手法や分析手法の理解と使い方の判断だと思います。専門に勉強しないと知ることのない、しかし、その手法を使うことで、これまでクリアにできなかったことが明らかになるかもしれないリサーチ手法や分析手法は多くあります。

 リサーチデザインを「しょせん、アンケートやインタビューでしょ。誰でもできるよ」などと甘く考えることなく、プロに相談しながら一緒に考えていくことが、結局は失敗や無駄をせずに、有効なリサーチを行う近道となると思います。(そしてリサーチャーも、リサーチデザインをしっかり行っているか、いまいちど自身を顧みる必要がありそうです。クライアントからの厳しい声が聞こえています・・・)


 

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鈴木 敦詞 (すずき あつし)

りんく考房代表。マーケティングエージェンシーや調査会社を経て、2006年に独立し現在に至る。マーケティングリサーチの研修、企画・分析を手がける傍ら、blog「マーケティングリサーチの寺子屋」で情報を発信する。日本マーケティングリサーチ協会個人賛助会員。2009年多摩大学大学院修士課程(経営情報学)修了。


 



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