アウトプットと解釈
トライアルリピートモデルシミュレータを用いて売上の予測値の算出を行います。まず、実際に算出する前に、トライアルリピートモデルは毎月の売上をどのように計算しているかを見てみましょう。
上の図は、上市月~3ヵ月目まで各月における購買者(トライアラー+リピーター)の内訳を示したものです。母数となる製品ターゲットの「市場規模(人数)」は予め算出しておきます(市場規模の推定方法はコチラ)。ではまず、上市月の人数内訳を見てみましょう。上市された最初の月は、以下の3タイプの人で構成されています。
上市月の市場規模(人数)
= 商品を認知していない人(非認知者)
+商品を認知したが、購買していない人(認知・非購買者)
+商品を認知し、購買した人(トライアラー)
この内訳は、商品の「認知率」・「配架率」・「トライアル率」を元に、初月で市場全体の何割が商品を認知し、更にトライアルしたかを計算することで求められます。購買者(トライアラー)の人数が分かれば、「商品単価」を掛ける事で、売上が算出できる、という仕組みです。
では次に、上市月の人数を元に、2ヵ月目の売上を予測しますが、トライアルリピートモデルでは以下の考え方で計算を行います。
・上市月に購買した人(トライアラー)のうち、何割がリピーターになったか?(上図 矢印A)
・上市月に購買しなかった人のうち、何割が2ヵ月目に初めてトライアルしてくれたか?(上図 矢印B)
このように、上市月のそれぞれの状態の人が、2ヵ月目にどの状態になるかを「トライアル率」・「リピート率」・「認知率」から計算することで、2ヵ月目の購買者数が算出され、「商品単価」と掛けて売上を予測できます。さらに翌月の3ヵ月目以降についても、前月のデータから同様に計算が出来ますので、以降は計算を繰り返すことで、各月の売上を計算できる、という仕組みです。
以上のモデルを組み込んだトライアルリピートモデルシミュレータに、「市場規模(人数)」「商品単価」「認知率」「配架率」「トライアル率」「リピート率」を入力することで、以下のような需要予測グラフが描かれ、売上の予測値を算出することが出来ます。ちなみにこのシミュレータはエクセルを用いて実装しています。
今回は1年の売上を予測するというテーマなので、 上市1年後までの売上の推移を見てみましょう。2011年の1月に上市した製品ですが、1年間で右肩上がりに月の売上(棒グラフ)が伸びており、12月単月の売上は約9000万円と読み取れます。これは、製品の認知者が毎月増えると同時に、トライアラー・リピーターもそれぞれ増加するため、購入者数全体が増加し売上が伸び続けている状態です。
以上より、1年間での累積売上予測は約6億5900万円と算出されます。その後の売上の推移については、トライアラー・リピーターの数が次第に収束するため、季節変動により上下はあるものの、毎月1.1億~1.2億円程度を売り上げることがグラフから読み取れます。ただし、この例では、1年間でコンスタントにプロモーションを行い続け、一定の認知拡大がされ続ける前提で予測してます。途中でCMを中断すれば忘却率が上昇し、新規の認知が下がるため、予測値は変動します。実際の分析の場面では、3~6か月程度先までのプロモーションプランから、これら忘却効果や新規認知者比率を加味して予測の精度を上げていきます。
さて、仮にこの商品の初年度の売上目標が10億だったとした場合、どのように売上目標到達のプランを立てれば良いでしょうか。そこで、シミュレータの数値を操作し、ある一定の売上目標に到達するためには、「認知率は何%必要か」「トライアル率とリピート率は、何%を目指せば良いか」など、個別のマーケティング目標値を検討してみましょう。
上図の例では、トライアル率を+2%、リピート率を3%向上させた場合の、シミュレーション結果の比較を示しており、右図では1年の目標売上10億円に到達する計算になります。 このように、売上を目標に到達させるためのマーケティング目標値が決まれば、それを達成する為の具体的なマーケティングアクションを検討する事ができます。(補足:具体的なアクションに落とし込む 「トライアル率を2%上げるには、何をどうすればよいのか?」)
以上のモデリングをベースとして、更に予測精度を向上させる為に、セグメント別にシミュレータを組んで消費者の異質性を考慮した需要予測を行う、地域による補正を加えるなどのオプションを適宜追加する事も可能です。また、「モンテカルロシミュレーション」を実施すれば、モデルインプットの誤差をケアして区間推定の売上予測を行う事ができます。
<補足:具体的なアクションに落とし込む ~ トライアル率を2%上げるには、何をどうすればよいのか?>
具体的なマーケティングアクションを検討する際に、「では、トライアル率を2%上げるには何をどうすればよいのか?」といった疑問が生じると思います。トライアル意向やリピート意向には、パッケージデザイン、ネーミングなどの製品要件、陳列用什器やPOP、フェイス率などの店頭施策、価格、ブランドイメージ、ブランドとの接触量、競合の競争力など広範なマーケティング戦略要因が影響します。これら要因の中で、「どういう要因がブランドの選択行動に影響を及ぼすかを特定し、どのような施策を打てばトライアル率やリピート率を何%上げる事ができるか」を具体的に推定する方法として、ショッパーズ・セレクションが挙げられます。この手法はマーケティングリサーチで得られるデータを使って、質的選択モデルを実行します。トライアルリピートモデルと組み合わせる事により、上記のような「売上予測+マーケティング施策レベルでの最適化シミュレーション」を行う事が可能となります。
また、上市が直近に迫っている、もしくはすでに上市後である場合、戦略のマスタープランを大きく変えるのは難しくなります。その場合は以下のような手法を使い、「コンタクトポイントにおけるコミュニケーションを操作する事で購買意向を向上させる」というアプローチが考えられます。それぞれ、購買意向や購買行動を喚起させる為に最適なコンタクトポイント戦略を導出する為の手法です。
・最適なコンタクトポイントの選択と編成を行う(コンタクトポイントフォーメーションデザイナー)
・コンタクトポイントへの予算配分を変える(コンタクトポイント・バジェットシミュレータ)
・コンタクトポイントでのコミュニケーションを最適化する(ブランドコミュニケーションポートフォリオ)