アウトプットと解釈
作成したコンセプト案は、
1. <受容性> 受容される為の基本的な要件を備えているか?
2. <インサイトとの一貫性> ベースとなったインサイトから離れていないか?
3. <競争力> 競合より高いレベルでインサイトを突いているか?
の3つの視点からチェックします。まず、「1.コンセプトとして受容される為の基本的な要件」とは、信頼性、独自性、理解度、好感度、興味喚起力、インパクト、エンゲージメント、ふさわしさ、そして総合魅力と購入意向などの、従来から用いられている指標から見てどうか、という視点です。定量アンケートでこれらの指標を質問項目に落としてデータを収集します。分析時には全ての指標を用いても良いのですが、指標の数が多くなると「結局どれで判断すれば良いのだろう?」となってしまいます。
そこで、「購入意向を目的変数として重回帰分析をした時、係数の大きい指標を優先的に見ていく」というロジックで指標に優先順位をつけておくと良いでしょう。いくらコンセプト間で差がつくような項目でも、購入意向に寄与していなければ指標として採用するメリットは少ないです。例えば「ユニークネス・独自性」の様な項目は、コンセプトの中に目新しい表現やユニークなデザインを入れれば統計的な有意差は出易くなります。しかし、奇抜なアイディアは消費者には受け入れ難く捉えられ、購入したいとは必ずしも思われない可能性もあります。よって、購入意向に寄与する程度が高い指標から優先順位を高くして見ていく事が望まれます。
基本的な指標と同時に見ておきたいのが、「2.作成したコンセプトが、そのベースとなったインサイトと一貫性があるか」という事です。具体的な手順としては、まず作成したコンセプトの中の「インサイトとプロポジション」にあたる部分を抜き出し、コンセプトを評価する為の評価項目(インサイト一貫性指標)を作ります。インサイトはターゲット消費者が無意識的、潜在的にでも望んでいる”ニーズ”、プロポジションは製品が提供できる”価値”です。つまりこの部分は「どのようなインサイトに対して、どのような製品ベネフィットで訴求しているか」という関係性を表しており、作成したコンセプトの「バリュープロポジション」にあたります。
次に、実施するコンセプトテスト(定量アンケート)の中で、作成したインサイト一貫性指標を使ってデータを収集します。データ解析を行い「作成したコンセプト案がインサイトとプロポジションにどの程度即しているか」をスコアリングします。実際にはインサイトとの一貫性が数値で算出されますが、このアウトプットでは分かり易さの為、○(インサイトと非常に一貫性がある)、△(インサイトとまあまあ一貫性がある)、×(インサイトと一貫性が低い)の様に表現しています。○△×を判定する閾値も、解析の中で算出されます。下図はインサイトとの一貫性評価と、コンセプトの基本的な受容性評価の結果を一覧でまとめた「スクリーニングマトリクス」です。
この例だと、まず、基本要件の評価では、コンセプト1とコンセプト3の「信頼性」「エンゲージメント」は評価が高く、基本要件で見るとコンセプト1とコンセプト3が良いコンセプトだといえます。次に、インサイト一貫性指標を見ると、コンセプト1はコンセプト3と比較して、「家事が忙しい」「皿洗いに手間をかけたくない」といったインサイトと非常に即していることが分かります。このように、この2つの指標を見ることで、コンセプト1が最も優れているコンセプトだと判断することが出来ます。
次に「3.作成したコンセプトが、競合製品より高いレベルでインサイトを突いているか」をチェックします。コンセプトの競争力をインサイトレベルで測定・比較するには、作成した自社のコンセプトのバリュープロポジションの”強さ”を算出し、競合製品のバリュープロポジションの”強さ”と比較します。バリュープロポジションとは、コンセプトの中で「インサイト - 製品ベネフィット」の関係性を表す部分の事でした。自社のバリュープロポジションに関しては、上記2<インサイトとの一貫性を測る>で把握しました。競合のバリュープロポジションの把握と、バリュープロポジションの強さの算出には「コンテクスチュアルポジショニング」(※)と言う手法を使います。下図は解析により把握した、競合及び自社のバリュープロポジションとその強さです。
競合より高いレベルで”自分向け”と共感させる事が出来れば、インサイトレベルで競争優位なバリュープロポジションと言えます。上図では”レレバンス値”と言う値が各バリュープロポジションに計算されています。この値は、各コンセプトが「この製品は、自分の様な生活コンテクストを持ち、自分の様なキモチや悩み・価値観を持つ消費者の為にあるんだな=自分向けの製品」とターゲットに思わせる力の強さを示しています。
現在市場にある製品のレレバンス値の平均が、現行市場のノルム値となります。このノルム値をベンチマークとして自社の製品コンセプトを比較し、ノルム値より高ければGo、低ければNoGo(コンセプトの練り直しが必要)と判断できます。また、特定の競合製品のレレバンス値をベンチマークとして、それより高ければGo、低ければNoGoとする考え方もありえます。
コンテクスチュアルポジショニング(※)を用いる事のメリットは、現行のコンセプトがNoGoとなった場合、消費者のインサイトに戻ってバリュープロポジションを練り直す事ができる、という点です。コンテクスチュアルポジショニングの定性調査部分で様々なコンテクスト項目がインサイトの素として抽出してある為、例えばマーケターが仮説的に、「製品ベネフィットを、この生活者コンテクストと結び付けて価値の提案をした場合、競合と比べてどの程度インサイトに訴求できるだろうか?」という事を数値で比較シミュレーションする事ができるわけです。加えて、解析によりあらゆるコンテクスト項目と製品ベネフィットの組み合わせのレレバンス値を算出する事が出来る為、インサイトをより高いレベルで付くことができるコンセプトを網羅的に探索する事もできます。
※<コンテクスチュアルポジショニングの概要>-----------------------------
-競合のバリュープロポジションの解明について
具体的にはまず、現在市場にある競合製品をリストアップし、競合の製品ベネフィットを網羅的に書き出します。次に観察調査やデプスインタビューなどの定性調査、またはワークショップを通じて当該製品カテゴリの利用シーンや利用時の気持ち、体験、潜在ニーズなどを把握し、項目として抽出・整理します。これらは、競合のインサイトの候補となっている項目で「コンテクスト項目」と呼びます。抽出した競合の製品ベネフィットとコンテクスト項目について定量アンケートでデータを収集し解析する事で、それぞれの競合製品について「どのようなインサイト(コンテクスト項目)に対して、どのような製品ベネフィットで訴求しているか」という関係性を解析的に把握する事ができます。
-バリュープロポジションの強さ算出について
コンセプトが「競合より高いレベルでインサイトを突く」とは、言い換えれば競合製品より自社製品の方がより「自分に向いている、自分にふさわしい」と共感してもらう事です。従って、バリュープロポジションの”強さ”を測定するには、そのバリュープロポジションが「消費者に、製品をどれだけ自分向けと思わせる事ができるか」を計算すればよいわけです。この値は、解析を行うとレレバンス値という値で算出されます。
詳細については、こちらのページをご覧ください。
<関連手法>
・コンセプトテストの結果を用いて、売上予測を行う(トライアルリピートモデル)
・「購買行動を促進させる」という視点からのコンセプト開発とコンセプトテスト(ファネルリポジショニング)