アウトプットと解釈
まず、「どの媒体がきっかけとなって自社製品がリピート購買されているのか」というデータを数週間~数か月分取得しましょう。これは製品上市後の購買者トラッキング調査でよく聴取される項目ですが、例えば以下の様な質問イメージです(別にこの通りの文言でなくても問題ありません)。
"(継続購買者に対して)以下の広告の内、どの広告が購入のきっかけとなりましたか?
あてはまるものを全てお選び下さい。"
□ TVCM
□ Webキャンペーン
□ 店頭プロモーション
□ 雑誌
□ 新聞
ちなみに、ここでは「リピート購買」という観点からの最適化ですので、リピート購買のきっかけとなった媒体を聞いていますが、どの様な観点から媒体配分を最適化したいか、によって必要なデータ(質問項目)は異なります。例えば「認知向上」という観点から最適化したいのであれば、どの媒体で認知したか?を聴取する必要があります。広告が狙う購買行動に合わせて適切なデータを取得して下さい。
さて、この様な質問形式で取得したデータを解析する事で、リピート購買を促進するという観点から費用対効果が最大かつ予測のブレが最小となる媒体配分を割り出す事が出来ます。尚、本手法では時系列データを分析対象とする為、事前に階差や対数階差をとりデータを定常化しておく事と、季節調整を施しておく事が必須となります。(ここではアウトプットの見方と解釈に重点を置いて説明を行います。詳細については、コレクシアまでお問い合わせ下さい)。
継続購買行動の伸長率の期待値を少しずつ上昇させていき、その都度予測のブレが最小になるように媒体配分を組み合わすシミュレーションをしていった結果が、下の図1です。

図1は縦軸に媒体配分(累積で100%)、横軸に継続購買率の伸長率(リターン)をとっています。伸長率とは、「その媒体配分により、行動率が前年よりどれ位伸びるか」という期待値です。例えば、前年の継続購買率が平均で10%で、ここに伸長率40%と予測されたメディアミックスがあるとすれば、そのメディアミックスを実行すれば今年の継続購買率は、期待値で10%×(100+40%)=14.0%に向上する(対前年比で140%になる)だろう、という概算が成り立つ事を意味します。
図1を見ると、まず要求する継続購買の伸長率によって媒体配分が異なる事が分かります。要求する伸長率が高くなるほどTVCMと新聞の比率は下げ、逆に店頭プロモーションやWebキャンペーンの比率を増やすべき事が読み取れます。これは、継続購買率を高めたいならマス媒体だけではなく、消費者とのコミュニケーションの深化が図れる媒体とのミックスが効果的である事を表しています。また、最大の「リターン」を望むのであれば、Webキャンペーンに集中投下するべき事も示唆されています。その時の継続購買率の伸長率は68.5%ですから、それにより対前年比で最大168.5%まで伸びる可能性がある事になります。
しかしここで、投資はプラスに働くこともあれば、マイナスに働くという「リスク」もある事に注意してください。「期待値で」や「可能性がある」という表現をしているのはその為で、マイナスの伸長率というのも起こり得る事です。継続購買率の伸長という「リターン」を大きく期待すれば、当然「予測のブレ」という「リスク」も大きくなるわけです。その様な、”ある媒体配分に内在するリスクとリターンの関係”を表す曲線を図2に描いています(この曲線も解析の過程で出力されます)。

この図は縦軸にリスク、つまり「予測のブレ」を表す「標準偏差」、横軸に継続購買率の伸長率をとっています。読み方としてはまず、図のAの部分にあたる媒体配分は非効率的です。何故なら同じリスクでもっと高い伸長率を望める配分が存在するからです。図のBにあたる部分は、効率的なリスクとリターンの組み合わせ示しており、「効率的フロンティア」と呼ばれます。Bより右下の部分には現実的に選択可能なリスクとリターンの組み合わせは存在しません。曲線より上は選択可能ですが、より低いリスクでもっと高いリターンを達成する組み合わせが存在するという意味で、最適ではありません。
従って、結局この線分B上のリスクとリターンの組み合わせの中でどんなトレードオフを選択するか、という問題になります。まず、先ほどのWebへの集中投下による「最大のリターン」を望む<シナリオ1>を見てみましょう。この場合の配分は、
<シナリオ1>

で、伸長率68.5%に対して標準偏差は98.3%です。確かに最大の伸長率を望めるのですが、-29.8%というマイナスの伸長率になる事も十分あり得る(68.5%-98.3%)という事を意味しています。つまり、1点投下はリスクが大き過ぎるという事ですね。
次に、予測のブレが一番小さくなるような配分<シナリオ2>を見てみましょう。伸長率25%の点Cの辺りで標準偏差が最小値(11.3%)をとっています。その時の媒体配分は図1の元データを読むと
<シナリオ2>
となりました。従ってこの配分なら、基本25%程度の伸長率が見込め、最悪でも25%-11.3%=13.7%の伸長率は期待できるという事です。
次に、この「ワーストケースでの伸長率が最大になる」配分を探してみましょう<シナリオ3>。図3は、標準偏差から計算した伸長率の下限(縦軸)と伸長率の期待値(横軸)の組み合わせを表しています。

この図から見ると、およそ点Dの伸長率50%のあたりで下限の伸長率が最大値(18.5%)をマークしています。図1で伸長率50%の時の媒体配分を読み取ると、以下のようになりました。
<シナリオ3>

シナリオ2(点C)での媒体配分に比べて、TVと新聞の配分が下がり、Webキャンペーンと店頭プロモーションの割合が大分上がった配分となりました。この配分なら、最低でも18.5%の伸長率が期待できそうという事です。
さて、実際の実務では上記の様な情報に加え、現在までの媒体計画からスムーズに移行できるかどうか?というオペレーション上での検討事項や、「継続購買の向上」以外の目的から見た時の媒体配分と見比べてあまりにかけ離れていないか?という視点等を加え、点Cから点Dにかけての伸長率25%~50%の辺りで最適な配分を決定する、という流れになるでしょう。